大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(オ)87号 判決

上告人 斎藤朗

被上告人 東京大学総長 外一名

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

二、理  由

上告人屑屋極道こと斎藤朗の上告理由は末尾添附別紙記載の通りであつて、これに対する判断は次の通りである。

学校教育法はその第六八條で「大学院を置く大学は、監督官廳の定めるところにより、博士その他の学位を授與することができる。」と規定し、その第九四條で学位令は廃止されたけれども、同法は更に第一〇八條で「從前の学位令による学位は第九四條の規定にかゝわらず、第九八條の規定による大学において、文部大臣の定めるものの外なお從前の例により、これを授與することができる。」と規定している。そこで從前の大学である東京大学は從前の例により、学位令及び同令第九條に基き定められた東京大学学位規則によつて学位を授與することができる。而して右学校教育法第六八條はもとより、学位令、東京大学学位規則も、学位請求論文審査の手続は規定しているけれども、論文を審査しない場合の手続については何等の規定を設けていない。

上告人は「被上告人たる総長は最初正規の手続をふまざる学位請求論文をば却下するか或は正規の手続を教示すべきであつた」と主張するけれども、かゝる手続に関しては前記東京大学学位規則は何等の規定もしていない。從つて本件において総長が上告人の論文は学問的水準に達していないものとして、これを正式に受理するに値しないものと認め、上告人に学位請求の飜意を促すため、理学部長をして甲第四号証の書面を発せしめ同時に右論文を上告人に返戻せしめたことは、前記、法令、規則に違反せず、その措置を不法とすべき何等の理由なく、もとより上告人の権利侵害の問題をひき起す性質のものではないのである。そして上告人が理学部長の前記書面に反駁を加えたのに対し被上告人が所論のように回答をしなければならない義務はもとより前記学位規則の趣旨からも生ずるものではない。

尚所論は被上告人東京大学総長の前記措置が不法行爲を構成するという前提の下に、損害賠償の方法を論議し、ひいて民法第四一七條が憲法第一七條に適合しないと主張するけれども、所論はその前提において理由のないこと前段説示の通りであるから、当裁判所は右憲法違反の問題について判断をする必要は認めない。從つて本件は裁判所法第一〇條に基き大法廷で審判する場合に当らないものである。尚上告人は被上告人理学部長岡田要を当法廷において尋問せんことを申出で甲第九号証を提出しているけれども、当裁判所は事実の審理をするものではないから右申出は採用できない。又原審が同人を尋問しなかつたことも要するに原審の自由裁量に属するところであつて、これを以て上告の適法な理由とすることはできない。

よつて民事訴訟法第四〇一條、第九五條、第八九條により主文の通り判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判官 霜山精一 小谷勝重 藤田八郎 裁判官 栗山茂は差し支えにつき署名捺印することができない 裁判長裁判官 霜山精一)

上告人斎藤朗上告理由

一、不服の理由

上告人は、被上告人等は、あられもなく、刑法第二三〇條又は二三三條の如く、公然事実を摘示して上告人の名譽をき損し、又は虚偽の風説を流布し又は偽計を用い上告人の信用をき損して裁判を自己に有利に導く爲に判事等をまん着せんとする者であり、その立証方法として、被上告人たる理学部長岡田要を当事者尋問されん事を申立てたにかかわらず裁判官は之を採用せずして被上告人等の言を全然信用して「控訴人の主張するような論文を提出して学位を請求する権利なるものは未だ侵害されたということは出來ない」等と原審判決は言う。

これ原審判決は民事訴訟法第四二〇條の七及び九の「虚偽ノ陳述ガ判決ノ証ト爲リタルトキ」又は「判決ニ影響ヲ及ボスベキ重要ナル事項ニ付判断ヲ遺脱シタルトキ」等に該当すべきものであるから、ここに上告する次第である。

二、被上告人たる総長は、最初正規の手続をふまざる学位請求論文をば却下するか、あるいは正規の手続きを教示すべきであつた。しかるにそれを爲さずして、その論文を一應受理して理学部長へ廻送し、また理学部長が甲第四号証の回答文を提出者たる上告人へ発送し及び総長がこれを是認せしはこれ共に東京大学学位規則、学位令、学校教育法又は其立法精神に違犯する違法行爲であること、あるいは官吏服務紀律の違背の不法行爲たること等は、上告人が原審において度々申立てた通りである。

三、「しかのみならず、不法行爲上の損害賠償の方法としては、名譽き損に因るものでない限り、別段の意思表示がないときは金銭をもつてその額を定むべきである。しかるに学位請求権侵害を原因とする本訴によつて控訴人が主張するような謝罪廣告を爲すとか、大学の講堂の使用を許可するとかの特約が当事者間に存することの主張はないのである」と原審判決は言う。「憲法第十七條何人も公務員の不法行爲により、損害を受けたときは法律の定めるところにより国又は公共団体にその賠償を求めることが出來る」「民法第七〇九條故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハコレニ因リテ生ジタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ」「民法第七一〇條………前條ノ規定ニヨリテ損害賠償ノ責ニ任ズル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ爲スコトヲ要ス」。しかるに原審判決は「民法第四一七條損害賠償ハ別段ノ意思表示ナキトキハ金銭ヲ以テ其額ヲ定ム」にあくまでも拘泥して、上告人の請求趣旨を忌避したのである。

下級裁判所の判事等が法文に束ばくされるのは無理からぬ次第であろうが、本件においては、上告人の爲に民法第四一七條は、憲法第十七條に適合せざるを以て本件は大法廷において裁判せられるよう上告人は特に主張するものである。又本件は実に祖国日本の興亡及び地球人類福祉の爲にも重大なる関係を有するにつき被上告人たる東京大学理学部長岡田要に出廷を命じて当事者尋問せられん事を請願する。もし本件を大法廷に於て裁判せられざる場合は、其理由を判決文中に明記されたく希望する。

四、被上告人等は大学令によつて学術の蘊奧を攻究すべき義務を負うものであり、請願法による学術檢討の請願の事項を所管する官公署は、学会よりも寧ろ大学でなければならぬはずである。しかるに被上告人等が最初甲第九号証の学説審査請願書を受取りながら、甲第一号証の如く、それを返戻するが如きは、大学令や請願法違背の不法行爲である。そもそもこれが本件の発端となつた。実に被上告人等は不法行爲の常習者であると思われる。しかして東京大学は、上告人と十数年來の仇敵であるが故に被上告人等が学術の問題にかこつけて、虚偽の言を弄するからとてフシギではなく、また東京大学学位規則や慣例等がデタラメである所以は原審において上告人が申立てた通りである。裁判官として、本訴の眞相が奈辺に存するか、また本訴の結果が国家に及ぼす影響如何、喝破出來ず、被上告人等の如上の不法行爲等を等閑に附して彼等の我まゝ勝手を増長するが如き結果になつては、官吏服務紀律の「オヨソ官吏ハ国民全体ノ奉仕者トシテ誠実勤勉ヲ主トシ法令ニ從イ各其職務ヲ盡スベシ」を完うせざる所以であるまいか。

五、「たとえその主張するような新聞記事により控訴人の名譽がき損されたとしても、それと被控訴人等の本件学位請求に対する措置との間に因果関係はなく從つて被控訴人等が控訴人の名譽をき損したことにはならない」と判決は言う。

これ裁判官が被上告人等の虚偽の言を全然信用し、それに基く誤解にすぎざるを以てあえて論ずる程のことはあるまい。

六、証拠書類として甲第九号証を提出する。

(追記)

上告人は去る三月末郷里へ引上げて來たばかりで貧乏に付普通の口答弁論には出廷困難の事情にあります。

しかし理学部長岡田要氏を当事者尋問御許可相成場合には是非出廷致したきにつき、特に御通知下されたく請願します。

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